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『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】
佐藤 春夫
Read たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集【底本画像有】 (『てっぽうさへいじ』ついでにもひとつ) by 佐藤 春夫 (さとうはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,182 characters · 48 screens
『鉄砲左平次』序にも一つ
何の国、何郡なり。
古来、魔所と伝える峠、或る晩そこで一人の若者が八ツ裂きにされて了った。峠を越えて夜毎隣村の娘に通うていた男である。
殺された男の友達思うに、今時魔物など住んでいる筈もない。これは言い伝えのある場所をよい事に、わざとかかる酷たらしき殺し方をして恋の意趣を晴らすものであろう。
女敵らしい者を物色し、復讐を企て夜陰にその峠を数人にて越える折から、先頭の一人がまたしても咄嵯の間にその場に倒れ、浮き足立った連中は見極める隙もなく逃げ帰り、再び勇気をふるって戻って見ると、矢張り物凄まじい有様で死んで了っている。
再度の事に、怖れは絶頂に達して、今さらに古来の伝えを思い出すのであったが、中でも智慧のあるのは矢張り魔者なぞは信じられないので、天狗などというものはない筈だから、多分鷲かなんかでもあの大木に来て止るのであろうなどと取沙汰をしていた。
これを聴いたのが鉄砲左平次という老人です。鉄砲の名人で、倅から仔細の話を聞くと、みんなの止めるのもかまわず、月の明るくなる晩を待ち兼ねて出かけたのです。
充分自信のあるらしい左平次は、何人も後に従う事を宥さぬので、それでも五六人の連中はついて行くつもりでいたが、矢張りその場所までは出かける勇気がなかったらしいのです。