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しゅんきんしょう

ちくま日本文学014 谷崎潤一郎

谷崎 潤一郎

Read ちくま日本文学014 谷崎潤一郎 (しゅんきんしょう) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 85,196 characters · 169 screens

Aozora Bunko

大和名所図会などにも、「菜摘の里に花籠の水とて名水あり、また静御前がしばらく住みし屋敷趾あり」とあるのを見れば、その云い伝えが古くからあったことであろう。鼓を持っている家は、今は大谷姓を名のっているけれども、昔は村国の庄司と云って、その家の旧記によると、文治年中、義経と静御前とが吉野へ落ちた時、そこに逗留していたことがあると云われる。なお附近には象の小川、うたたねの橋、柴橋等の名所もあって、遊覧かたがた初音の鼓を見せてもらいに行く者もあるが、家重代の宝だと云うので、然るべき紹介者から前日に頼みでもしなければ、無闇な者には見せてくれない。それで津村は、実はそのつもりで国栖の親戚から話しておいて貰ったから、多分今日あたりは待っているはずだと云うのである。

「じゃあ、あの、親狐の皮で張ってあるんで、静御前がその鼓をぽんと鳴らすと、忠信狐が姿を現わすと云う、あれなんだね」

「うん、そう、芝居ではそうなっている」

「そんなものを持っている家があるのかい」

「あると云うことだ」

「ほんとうに狐の皮で張ってあるのか」

「そいつは僕も見ないんだから請け合えない。とにかく由緒のある家だと云うことは確かだそうだ」