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しゅんきんしょう
ちくま日本文学014 谷崎潤一郎
谷崎 潤一郎
Read ちくま日本文学014 谷崎潤一郎 (しゅんきんしょう) by 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 85,196 characters · 169 screens
これは多分、しばしば祖母に連れられて文楽座や堀江座の人形芝居へ行ったものだから、そんな時に見た葛の葉の子別れの場が頭に沁み込んでいたせいであろう。あの、母狐が秋の夕ぐれに障子の中で機を織っている、とんからり、とんからりと云う筬の音。それから寝ている我が子に名残りを惜しみつつ「恋いしくば訪ね来てみよ和泉なる―――」と障子へ記すあの歌。―――ああ云う場面が母を知らない少年の胸に訴える力は、その境遇の人でなければ恐らく想像も及ぶまい。自分は子供ながらも、「我が住む森に帰らん」と云う句、「我が思う思う心のうちは白菊岩隠れ蔦がくれ、篠の細道掻き分け行けば」などと云う唄のふしのうちに、色とりどりな秋の小径を森の古巣へ走って行く一匹の白狐の後影を認め、その跡を慕うて追いかける童子の身の上を自分に引きくらべて、ひとしお母恋いしさの思いに責められたのであろう。そう云えば、信田の森は大阪の近くにあるせいか、昔から葛の葉を唄った童謡が家庭の遊戯と結び着いて幾種類か行われているが、自分も二つばかり覚えているのがある。その一つは、
釣ろうよ、釣ろうよ
信田の森の
狐どんを釣ろうよ