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とんびとあぶらげ
とんびと油揚
寺田 寅彦
Read とんびと油揚 (とんびとあぶらげ) by 寺田 寅彦 (てらだとらひこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 2,935 characters · 6 screens
もし器底に一粒の色素を置けば、それから発する色づいた水の線は器底に沿うて走った後にこの上昇流束の中に判然たる一本の線を引いて上昇するのである。
もしも同様なことがたぶん空気の場合にもあるとして、器底の色素粒の代わりに地上のねずみの死骸を置きかえて考えると、その臭気を含んだ一条の流線束はそうたいしては拡散希釈されないで、そのままかなりの高さに達しうるものと考えられる。
こういう気流が実際にあるかと言うと、それはある。そうしてそういう気流がまさしくとんびの滑翔を許す必要条件なのである。インドの禿鷹について研究した人の結果によると、この鳥が上空を滑翔するのは、晴天の日地面がようやく熱せられて上昇渦流の始まる時刻から、午後その気流がやむころまでの間だということである。こうした上昇流は決して一様に起こることは不可能で、類似の場合の実験の結果から推すと、蜂窩状あるいはむしろ腸詰め状対流渦の境界線に沿うて起こると考えられる。それで鳥はこの線上に沿うて滑翔していればきわめて楽に浮遊していられる。そうしてはなはだ好都合なことには、この上昇気流の速度の最大なところがちょうど地面にあるものの香気臭気を最も濃厚に含んでいる所に相当するのである。