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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
Read わか紫 (わかむらさき) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 37,708 characters · 75 screens
「ほんとうに、危いじゃないか。あんな無法な奴等だから、それこそ、谷底へでも投り出されてみたが可い、丁も半もあったものか。姉さんのこの星のような綺麗な目が、飛出してしまうだろう。
身体が大事だ、どんな家だって、財だって、自分にかえられるものはない、分ったか。」
「はい。」
といったが小さな声、男の腕に肩をもたせて伏目に胸に差俯向く、お鶴はこの時立っていた。
日の光は、あからさまに根の見ゆる、草の中へ淡くさして、枯れてしげれるむら薄は、燈火の影ぞと見ゆる、薄くれないに包まれたが、二人が立って背にした、山の腹は、暖かく照らされて、そこに実った黄金の枝は、露に蜜柑の薫を籠めて、馥郁として滴る気勢。
朝晴の蒼き大空は、軽いが頭に近いよう、彼方にごろごろと音がして、黒きかたまりの緩やかに畝り畝り、遠ざかり行く、車、雲助、その行くあたりちらちらと、白い雲の動いて見ゆるは、狭間に漏るる青海原、沖に静な鴎の波。
「さ、もう可い、もう可い。」
旅客は腕車を見送りながら、お鶴の塵を払ったあとを、背一つ撫でて離れ、
「怪我はせんか、どこも痛みはしないかな。」
「はい。」
とやや判然答えて、お鶴はむッくりした清らかな肱を、頬に押当てる姿して、倒れた時の土を見た。