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みうらろうじんむかしばなし

三浦老人昔話

岡本 綺堂

Read 三浦老人昔話 (みうらろうじんむかしばなし) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 113,637 characters · 224 screens

Aozora Bunko

女房の話によると、なにか親類に不幸が出来たとかいうのです。なんという都合の好いことでしょう。わたくしは手をあわせて遠くから浅草の観音様を拝みました。そのことを奥様に申上げますと、奥様も黙って笑っておいでになりました。奥様はどんなお心持であったか知りませんけれども、わたくしは襟許がぞく/\して、生れてから今夜ぐらい嬉しいことはないように思われました。

そのうちに約束の刻限がまいりました。生憎に宵から陰って、今にも泣き出しそうな暗い空模様になりましたが、たとい雨が降っても照之助は来るに相違ありませんから、天気のことなどは余り深く考えてもいませんでした。不動様の四つの鐘のきこえるのを相図に、わたくしは竊とお庭に出て、木戸の口に立番をしていますと、旧暦の九月ももう末ですから、夜はなか/\冷えて来て、広いお庭の闇のなかで竹藪が時々にがさ/\と鳴る音が寒そうにきこえます。お屋敷の屋根の上まで低く掩いかゝった暗い大空に、五位鷺の鳴いて通るのが物すごく聞えます。これがふだんならば、臆病なわたくしには迚も辛抱は出来そうもないのでございますが、今夜はいつもと違って気が一ぱいに張りつめています。