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ちゅうごくかいきしょうせつしゅう
中国怪奇小説集
岡本 綺堂
Read 中国怪奇小説集 (ちゅうごくかいきしょうせつしゅう) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 179,458 characters · 363 screens
(広異記)
担生
昔、ある書生が路で小さい蛇に出逢った。持ち帰って養っていると、数月の後にはだんだんに大きくなった。書生はいつもそれを担いあるいて、かれを担生と呼んでいたが、蛇はいよいよ長大になって、もう担い切れなくなったので、これを范県の東の大きい沼のなかへ放してやった。
それから四十余年の月日は過ぎた。かの蛇は舟をくつがえすような大蛇となって、土地の人びとに沼の主と呼ばれるようになった。迂闊に沼に入る者は、かならず彼に呑まれてしまった。一方の書生は年すでに老いて他国にあり、何かの旅であたかもこの沼のほとりを通りかかると、土地の者が彼に注意した。
「この沼には大蛇が棲んでいて人を食いますから、その近所を通らないがよろしゅうございます」
時は冬の最中で、気候も甚だ寒かったので、今ごろ蛇の出る筈はないと、書生は肯かずにその沼へさしかかった。行くこと二十里余、たちまち大蛇があらわれて書生のあとを追って来た。書生はその蛇の形や色を見おぼえていた。
「おまえは担生ではないか」
それを聞くと、蛇はかしらを垂れて、やがてしずかに立ち去った。書生は無事に范県にゆき着くと、県令は蛇を見たかと訊いた。