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あかくら
中谷宇吉郎集 第一巻
中谷 宇吉郎
Read 中谷宇吉郎集 第一巻 (あかくら) by 中谷 宇吉郎 (なかやうきちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 107,056 characters · 223 screens
赤倉
白樺の一本見えて妙高の
野ははろばろと雲につづけり
妙高のふもと三里の高原
赤倉の野は雲につづく
夕べ静かなるおもいを抱いて
わたしは野におり立って見る
茅の間に踏みわけられた径が
いつ迄も続いて
所々が灌木の叢にかくされている
風にそよぐ二本の白樺
そのたよやかな幹によれば
「肌は真白にわがおもいに似たり」と
北信の山に育った
友の言葉も浮ばれてくる
昨年の夏の初め
その友と妙高に登ろうと
径づたいに朝露の光る草原をいった
思い出がうつつよりもあきらかに
なつかしまれる
その帰途暮れゆく高原の奥
夕靄の彼方に洩れる赤倉の灯を
望んでから一年自分の心の底に
はぐくまれて来た赤倉の野に
今おり立って夕風を抱く
夏六月妙高の雪のかげには
寒竹の筍が生うると
宿の男のいうように
陽が落ちて
黒姫妙高戸隠と
親しみ多い北信の山々の頂きが
色褪せてゆくと
夕風が薄ら寒く肌にしみて
おぼろな落葉松の林から
郭公の声がこだまして来る
ふと見れば庭に捨てたる深山草
ゆうべの雨に蕾ひらけり
窓にひらく草原の
対数曲線のうるわしさが
わたしの心を和ましてくれる
軽いつかれを涼しい風に吹かせて
うっとりと窓に寄ると
ふと
須田町の電車に寄せる