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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

Read 丹下左膳 (たんげさぜん) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 340,187 characters · 666 screens

Aozora Bunko

そして刀が哭く。

離ればなれの乾雲丸と坤竜丸が、家の檐も三寸下がるという丑満のころになると、啾々としてむせび泣く。雲は竜を呼び、竜は雲を望んで、相求め慕いあい二ふりの刀が、同じ真夜中にしくしくと泣き出すという。

明日は、十月へはいって初の亥の日で、御玄猪のお祝い、大手には篝火をたき、夕刻から譜代大名が供揃い美々しく登城して、上様から大名衆一統へいのこ餅をくださる――これが営中年中行事の一つだが、毎年この日に曙の里小野塚鉄斎の道場に秋の大試合が催されて、高点者に乾雲丸、次点の者に坤竜丸を、納めの式のあいだだけ佩用を許す吉例になっている。もっとも、こういう曰くのある刀なのですぐに鉄斎の手へ返すのだけれど、たとえ一時にもせよ、乾坤の刀をさせば低い鼻も高くなるというもの。今年の乾雲丸はぜひとも拙者が――いや、それがしは坤竜をなどと、門弟一同はそれを目的に平常の稽古を励むのだった。

その試合の前夜、鉄斎はこうして一年ぶりに刀を出してしらべている。

「お父様、あの、墨がすれましてございます」弥生にいわれてぽっかり眼をあけた鉄斎、サラサラと紙をのべながら、夢でも見ているように突然にいい出した。