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ふたりのセルヴィヤじん
二人のセルヴィヤ人
辰野 隆
Read 二人のセルヴィヤ人 (ふたりのセルヴィヤじん) by 辰野 隆 (たつのゆたか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,804 characters · 14 screens
ふと、いなくなった「彼」の事を思い出して、主人にあのセルヴィヤ人は何うしたろうと、訊いて見た。主人の話によると、彼はひどく生活に困っている様子だったが、その為に宿にも居られなくなったらしい。小さなトランクを一ツ提げて何処かへ行って了った。誠に穏やかな好人物で、居るか居ないかわからぬ程静かな男だった。あんなおとなしい人が生活に困るのを見ているのは如何にも気の毒だ。「可哀そうに」と云って、主人は目をしばだたいていた。私も妙に気が沈んで、沁々した心持になって、主人と同情を分った。
冬が過ぎ、春が過ぎた。初夏の明るい光が、パリの隅々迄流れるようになった或日の午後、私は不意に彼の訪問を受けた。彼は相変らず古ぼけた黒の背広で、右の手には、例の黒い中折を持っていた。彼は其の中折を膝の上で捏ねまわしながら、あまり旨くないフランス語で、徐ろに口を開いた。君は十九世紀のフランス文学を研究しているという事を聞いたが、本当か。且つ高踏派、象徴派の詩人に興味を有っているか。と訊ねた。実は同国の友人で将来ベルグラードの大学の教授になる男だが、それが目下パリに来て、高踏派の詩人ジョゼ・マリヤ・ド・エレディヤを研究している。