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しつらくえんさつじんじけん
二十世紀鉄仮面
小栗 虫太郎
Read 二十世紀鉄仮面 (しつらくえんさつじんじけん) by 小栗 虫太郎 (おぐりむしたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 38,489 characters · 77 screens
けれども、疚しい所のない人間と云うものは、鳥渡した悪戯気から、つい芝居をしたくなるものだがね。それに……」
「いや、あの男はもっと他に知っている事があるんだぜ」検事はそう云って法水の言葉を遮ったが、法水は無雑作に頷いたのみで、
「ねえ熊城君」と鏨を示して、「これは兇器の一部かも知れないが、全部じゃない事だけは明らかだよ。と云って、兇器がどんなものだか、僕には全然見当が附かないのだが」
それから、彼は窓の障子をあけて、土蜘蛛の押絵をあちこちから眺めすかしていたが、突然背伸びをして、右眼の膜を剥ぎ取った。
「ホホウ、恐ろしく贅沢なものだな。雲母が使ってある。所が、左眼にはこれがないのだ。どうだね、光ってないだろう」法水がそう云った時に、静かに板戸の開かれる音がした――それが胎龍の妻柳江だった。
柳江は過去に名声を持つ女流歌人で、先夫の梵語学者鍬辺来吉氏の歿後に、胎龍と再婚したのだった。恰好のいい針魚のような肢体――それを包んだ黒ずくめの中から、白い顔と半襟の水色とがクッキリと浮出ていて、それが、四十女の情熱と反面の冷たい理智を感じさせる。会話は中性的で、被害者の家族特有の同情を強いるような態度がない。