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にじゅうしのひとみ
二十四の瞳
壺井 栄
Read 二十四の瞳 (にじゅうしのひとみ) by 壺井 栄 (つぼいさかえ) in Japanese with furigana. JLPT N3. Tap a word for the meaning.
N3 · intermediate · modern kanji and kana · 113,429 characters · 227 screens
「おお寒ぶ。もう袷じゃのう、おっさん」
「なに、陽があがりゃ、そうでもない。今が、いちばんえい季節じゃ。暑うなし、寒うなし」
珍らしく絣のセルの着物に、紫紺の袴をつけている大石先生だった。ゴザをしいた船の胴の間に横いざりに坐った足を、袴はうまくかくして、深い紺青の海の上を、船は先生の心一つをのせて、櫓音も規則ただしく、まっすぐに進んだ。二か月前に泣きながら渡った海を、今はまた、気おいたつ心で渡っている。
「なんせ、ひどい目をみたのう」
「はあ」
「若いものは、骨がやらこい(やわらかい)から、折れてもなおりが早い」
「骨じゃないんで。筋ともちがう。アキレス腱、いうんじゃがのう。骨よりも、むつかしいとこで」
「ほう、そんなら、なおいかん」
「でも、ひどい目にあわすつもりでしたんじゃないさかい。怪我じゃもん、しようがない」
「そんな目に おうても わかれの あいさつとは 気のえい こっちゃい。ゆんとん、さんじゃい」
船頭さんは櫓にあわせて短かくことばをくぎりながら、「ゆんとん、さんじゃい」で、いっそう力を入れてこいだ。大石先生もくつくつ笑いながら、それにあわせて、
「そんなこと いうても たったの 一年生が 親にも ないしょで 見舞いに きたんじゃもん いかんと おれるかい ゆんとん さんじゃい」