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ぼうれいホテル
亡霊ホテル
山本 周五郎
Read 亡霊ホテル (ぼうれいホテル) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,706 characters · 20 screens
博士は卓子の蔭から半身を出して見送ったが……亡霊の姿は煖炉の処で、急に掻消すように見えなくなって了った。
「待ち給え、まだ早い」
出ようとする伊藤青年を抑えながら、そのまま約三十分ほど息を殺していた博士は、もう誰の来る様子もなしと見極めがついたか、静かに卓子の蔭から出て、
「さあ愈々虎穴を探るんだ」
と囁いた。「今度は殊に依ると拳銃を使わなければならなくなるかも知れんぞ。だが撃つにしても足を狙い給えよ、決して足の外は撃っちゃ不可んぜ、――来給え」
博士は煖炉の前へ進んだ。亡霊の消えたのは其処である、――博士は跼みこんで、根気よく二十分あまりも煖炉の周囲を撫廻していたが、やがて指先が、煖炉棚の一角に触ったと思うと、火床が音もなく滑って、人一人が抜けられるほどの穴が、其処にぽっかりと口を明けた。
「あ! こんな所に抜け穴が」
「左様、こんな抜穴を使うなんて、亡霊にしては不便極まる話さ。だが、この建物は数年前から煖房器式になっているので、絶対にこの煖炉は使わないのだから、秘密の通路には持って来いの場所だね、――さあ入るんだ」
「大丈夫でしょうか」
「虎穴に入らずんば虎児を獲ずさ」