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なかなかしなぬあいつ
仲々死なぬ彼奴
海野 十三
Read 仲々死なぬ彼奴 (なかなかしなぬあいつ) by 海野 十三 (うんのじゅうざ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,216 characters · 18 screens
一
大熊老人にとって、凡そ不思議な存在は、少年喜助であった。
喜助君なら、今でも一緒に抱いて寝てやってもよいと思っているのであった。今年廿二歳になって、たいへん大人びてきた喜助君の方でも、抱かれることには大いに賛成であろうと思われる。
大熊老人といえば、あの人かと誰でもがすぐ思い出すほどの金満家であった。八十二歳になるというのに、腰一つ曲らず、流石に頭髪だけは霜のように真白になっては居るが、肉付は年増女房を思わせるほど豊満で、いつも赭顔をテラテラさせているという、怖るべき精力老人であった。
財産は五億円だとも云い、一説にはそれほどは無いが、すくなくとも一億円は越えているだろうと噂された。政党、ことに××党にとってこの老人は文字どおりの弗箱であったからして、大臣になったことは無いが、その巨大なる財力は常に到るところで物を言った。現に××内閣で帆をあげている大蔵大臣の如きは、実力に於て首相を凌ぐと取沙汰されているのも、実はといえば、この大熊老人が特に大蔵大臣の尻押しをしているからであった。大熊老人の鼻息の荒いもう一つの理由は、老人は三十年此の方、独身であり、そのうえ老人には一人の子供も無論孫も無い、全くの孤独者であったことである。