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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
平家蟹
登場人物
官女 玉虫
その妹 玉琴
那須与五郎宗春
旅僧 雨月
官女 呉羽の局
同 綾の局
浜の女房 おしお
那須の家来 弥藤二
ほかに那須の家来。浜のわらべなど
(一)
寿永四年五月、長門国壇の浦のゆうぐれ。あたりは一面の砂地にて、所々に磯馴松の大樹あり。正面には海をへだてて文字ヶ関遠くみゆ。浪の音、水鳥の声。
(平家没落の後、官女は零落してこの海浜にさまよい、いやしき業して世を送るも哀れなり。呉羽の局、綾の局、いずれも三十歳前後にて花のさかりを過ぎたる上、磯による藻屑を籠に拾う。)
呉羽 のう、綾の局。これほど拾いあつめたら、あす一日の糧に不足はござるまい。もうそろそろと戻りましょうか。
綾の局 この長の日を立ち暮して、おたがいに苛うくたびれました。
呉羽 今更いうも愚痴なれど、ありし雲井のむかしには、夢にも知らなんだ賤の手業に、命をつなぐ今の身の上。浅ましいとも悲しいとも、云おうようはござらぬのう。
綾の局 まだうら若い上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)たちは、泣顔かくす化粧して、ゆききの人になさけを売り、とにもかくにも日を送れど、盛りを過ぎし我々は見かえる人もあらばこそ、唯おめおめと暮しては、飢えて死なねばなりませぬ。