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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
この病いは和丹両家の典薬どもにも匙を加えようがない。加持祈祷の効験もない。枕もとには重恩の家の子、老若の女房ども、新古参の盲法師、歌連歌の者、さては田楽、ばさらの者、入り代り立ち代りに詰め切って、ひたすらその機嫌を取ることに努めているが、彼の病いはいよいよ嵩じるばかりで、半日ぐらいは物も言わずに打ち沈んでいるかと思うと、また俄かに疳が高ぶって、ただ訳もなしに焦れて狂って、相手嫌わずに叱る、罵る。果てはまくら刀にも手を掛けかねない権幕に、誰も彼もほとほと持て余して、腫物にさわるようにはらはらしながら看護している。その中でただ一人、恐れ気もなくその枕もとに坐りつづけているのは、彼が愛娘の小坂部であった。
父があまりに取り乱して、物の憑いたように狂い立つ時には、かれは凜とした声でお鎮まりなされませと言う。その一と声が耳にひびくと、さしもの師直も我に復って、悪い夢が醒めたように忽ちおとなしくなる。それは彼が日頃から姫を又なく寵愛しているのと、姫に備わっているおのずからの強い力が彼を押さえ付けるのと、この二つの理由にほかならないことを周囲の者もよく知っているので姫が主人の枕もとに控えている間は、誰も彼も先ず安心しているが、どうかしてその姿を主人の枕もとに見いださない時には、みんなびくびくして手に汗を握っているという