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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
木枯しは又ひとしきり吹きまくって、砂と落葉とが渦巻いてころげて来る中に、三人は袖をかき合わせてたたずんでいると、若侍は松明をかざして再び出て来た。ほかにも二、三人の侍が付いて来た。吹き消されたようにゆらめく火の光りで、かれらは門前に立つ三人の姿をとくと見さだめた上で、うやうやしく式代して奥へ案内した。
侍従は小坂部に付き添って奥へ通ったが、采女は玄関の前に控えていると、侍どもは彼を詰所へ案内して、焚火の前に休ませてくれた。ここでも北国の南朝方がこの頃ふたたび頭をもたげ出したという噂が出た。しかしそれも都までは攻めのぼって来る力があるまいなどとあざわらっていた。正成もほろびた、義貞も討たれた。車の両輪を失った南朝方がいかに燥っても狂っても、どうなるものではないと、どの人もみな楽観しているらしかった。かれらの敵は新田の一族でもない、楠の残党でもない、南朝方でもない。かえって味方の中にあることを、かれらは夢にも知らないのである。采女はそれを気の毒に思った。彼は又、よい主人をもっているということを、まわりの人達から羨まれた。それも何だか彼をくすぐったく感じさせたので、采女はなるべく詞すくなにうけこたえをしていた。