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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
男は口の中で何かしばらく呪文を唱えているらしかったが、やがて蝋燭を床に置いて、しずかに小坂部の方に向き直った。彼の肩に取り付いていた二つの鳥は、いつの間にか姿を消してしまった。
「ここはお身が永久の棲家じゃ。」と、彼はおごそかに言った。「身も魂もここに封じられた以上は、ふたたび人間の代に帰ろうとて帰られぬ。また帰るべき家もない。お身が父の高武蔵守師直、養い子の三河守師冬、かれらは遠からずしてことごとく滅亡じゃ。それも武士らしい、華やかな勇ましい最期ともあることか、世に死に恥を晒すような見苦しい死にざまじゃ。呪われたものは是非がない。」
「して、それは誰の呪いでござりまする」と、小坂部は彼の顔を屹と見つめた。
「われらの尊む夜叉羅刹の呪いじゃ。五万年の昔、阿修羅は天帝と闘うて、すでに勝利を得べきであったが、帝釈の矢軍に射すくめられて、阿修羅の眷属はことごとく亡び尽した。しかもその魂は八万奈落の底に沈んで、ひそかに末法の代の来たるを待っているうちに、まず唐土の世が乱れた。遠くは春秋戦国に始まって、秦ほろび、漢ほろび、つづいて三国、つづいて六朝、唐はわずかに二百九十年の代を保ったが、その間にも兵乱は歇む時なく、さらに五代の乱れとなる。