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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
童乙 ありがとうござりました。
(童は蟹の糸をときて、うしろの海に放ちやる。)
雨月 この後もあの蟹を捕えてはならぬ。平家のたましいが乗憑っているからは、どのようなおそろしい祟りがあろうも知れぬぞ。
三人 あい。あい。
(わらべ等は去る。雨月はあとを見送る。)
雨月 日暮れてあたりに人もなし、忍ぶ身には丁度幸いじゃ。海に沈みし御一門の尊霊に、よそながら御回向申そうか。
(雨月は浜辺にひざまずき、数珠を繰りつつ、海にむかって回向す。官女玉虫、廿歳、下髪、被衣をかぶりて出で、松の木かげに立ちて窺いいるうちに、雨月は回向を終りて起たんとす。)
玉虫 あ、もし……。
(雨月はたちどまりてすかし視る。)
雨月 どなたでござりまするな。
玉虫 おお、宗清殿……。わらわじゃ。玉虫じゃ。
(近寄りて被衣を取る。かくと見るより雨月は再び土にひざまずく。)
雨月 いかにも弥平兵衛宗清、不思議なところでお目にかかりました。
玉虫 なんの不思議なことがあろう。ここは平家が沈んだ海じゃ。平家にゆかりある者は、ここを去ってどこへ行こうぞ。見ればお身はさまを替えて、仏の御弟子となったよな。
雨月 平家没落の後、甥の景清にいざなわれ、肥後の山家にかくれて居りましたが、亡き方々の菩提をとむらう為め、御覧の通りにさまをかえて、今は世をすて武士を捨て、ただ阿弥陀仏を念じ