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へいけがに
伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集
岡本 綺堂
Read 伝奇ノ匣2 岡本綺堂妖術伝奇集 (へいけがに) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 203,094 characters · 411 screens
(善助は会釈して下のかたへ去る。)
おあさ わたし達もそろそろ帰ろうではありませんか。
おつぎ もう片付けて帰りましょう。
おいよ ふだんと違って此頃は、帰りが遅いと内でも案じるであろうから、日の暮れぬうちに早くお帰りなさい。
二人 あい、あい。
(おあさとおつぎは仕立物を早々に片付ける。)
二人 では、あした又お稽古にまいります。(おいよとお妙に会釈して縁を降りる。)
お妙 気をつけておいでなさい。
おいよ 狼の噂の絶えぬあいだは、決して夜歩きをなさるなよ。
二人 あい、あい。
(おあさとおつぎは足早に下のかたへ去る。お妙は後を見送る。)
お妙 此頃は寄れば障れば狼の噂ばかりで、ほんとうに忌なことですな。兄さんも狼のありかを探して、山の奥まで踏み込んだのではありますまいか。
おいよ そんなことかも知れません。今こそ狩人になっているが、おれも昔は武家の禄を食んだ者、今度の狼はどうでも我手で仕留めねばならぬと、日頃から云い暮らしていられたから、きょうも山奥へ踏み込んで……。(向うを見る。)当途も無しに峰や谷間を駈けまわって、木の根や岩角にでも蹉くか、谷川へでも滑り落ちるか、飛んだ怪我でもしなさらねばよいが……。