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べっぷおんせん
別府温泉
高浜 虚子
Read 別府温泉 (べっぷおんせん) by 高浜 虚子 (たかはまきょし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,339 characters · 27 screens
錦鱗湖
萍の温泉の湧く岸に倚り茂る
自動車を下る
夏草に油蝉なく山路かな
旱
大夕立来るらし由布の掻き曇り
別府の地下は泉脈が縦横にあって、熱汽、熱沼、熱湯を噴出するものを地獄といい、適度の温度を保って湧出するものを温泉といっている。その地獄に血の池地獄とか、鶴見地獄とか、紺屋地獄とかいうのがある。これは熱汽、熱泥を噴出する地獄である。海地獄はそれらの地獄とは異なりて大きな池に熱湯をたたえたもので、その色青藍、大海の色に似ているところからこの名がある。
海地獄は地獄のうちで女王の感じがある。それも他に王様があっての女王でなく、たくさんの他の地獄の悪鬼羅刹を自ら統率しておる女王の感じである。
その青藍色の湯池は蠱惑的である。美しさの余り眩惑されて身を投じるものもないとは限らぬ。又十分の威厳を備えておる。百二十度の熱湯は儼として人を近寄らしめない。正に女王の感じである。
私の日名子氏等と共にここに行ったのは六時半を過ぎていたろう。濛々たる白煙は熱湯池から立ち上っていた。此方より風吹けば彼方の岸になびき、彼方より風吹けば此方の岸になびく。その白煙の隙から後ろの山の翠色を仰ぐのも又風情がある。