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ぜんきてんまやけ
前記天満焼
国枝 史郎
Read 前記天満焼 (ぜんきてんまやけ) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 48,568 characters · 98 screens
髪を頸に束ねている。それで額が三角形に見える。ぼうぼうと毛ば立った太い眉、耳まで続いていないだろうか? そう思わなければならない程、延々と長く引かれている。だがその下に凝然と、見据えられた眼を見た人は、ああこの女は狂信者だ! こう思わずにはいられないだろう。
女は、全身を現わしたのではない。二尺余り開いた戸の隙から、半身を覗かせているのであった。
「市郎右衛門! 市郎右衛門!」
その女が呼んだのである。喰い縛ったような声である。
すると、木立を押し分けて、一人の男が現われた。他でもない番頭であった。だが、相好が変っている。キョトキョト恐れおどついていた、先刻までの番頭ではないのであった。
「お久美様!」と土下座をした。
「かようなことになろうとは……迂闊千万にございました」
「今は云わぬよ! 何にも云わぬよ! ……しかし生かしては置かれない! ……今日中に命を取るがいい! ……手が入ったら一大事だ」
「手配り致すでございましょう。……それに致しても血刀は?」
「意外だったよ、妾にしてからが! ……裸体に剥かれた人間が……」
「お部屋にいたのでございますか?」