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じゅうにしこう
十二支考(上)〔全2冊〕
南方 熊楠
Read 十二支考(上)〔全2冊〕 (じゅうにしこう) by 南方 熊楠 (みなかたくまぐす) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 290,735 characters · 566 screens
初夏から初冬まで海より遠からぬ丘陵また殊に沙浜に少なからず、注意せば随分多く集まる物と思う。黄土や無名異に似て見えるから鉄を含んだ物と判る。鉄をいったついでに今一つ国益になる事を教えつかわす。
往年東牟婁郡の某々の村を通り、家々の様子を見ると何となく昔見た東国諸駅の妓家に似おった。因って聞き合すと、以前この二村の娘年頃になると皆特種の勤めを稼ぎ父兄を資け、遠近これを讃えて善くその勤めを成した娘を争い娶ったが、維新以後その俗廃れ家のみ昔の構造のまま残るといった。古戦場を弔うような感想を生じてその一軒に入り、中食を求め数多き一間に入って食いながら床間を見ると、鉄砂で黒く塗りいる。他の諸室を歴巡るに皆同様なり。それから事に託して他の一、二家に入って見るとやはりかくのごとし。この砂は何地の砂かと聞いたが、耄叟や婦女子ばかりで何だか分らず、こんな地へ遠国より古くかかる物を持ち来るはずなければ、必ずこの地に多く鉄砂を産する事と考えた。その後勝浦から海伝いに浜の宮まで川口を横ぎり歩いて海藻を調べたところ、下駄の跡が潮に淘るる鉄砂で黒く二の字を画く処あり。浜の宮には鉄砂の中へ稲を種えたよう見えた田もあった。