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オチフルイかいじゅうろうてがらばなし
十二神貝十郎手柄話
国枝 史郎
Read 十二神貝十郎手柄話 (オチフルイかいじゅうろうてがらばなし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 127,035 characters · 254 screens
「これは敵わぬ」「敵わぬついでに」
「降参でござる。もういけない」
「では妾が助太刀と出ましょう」
「おお飲まれるか、これは面白い。……さあさあ拙者が注ぎの番か」
「はい、ご返盃」「あい、合点」
「ねえお武家様」と女は云った。「江戸のお方でございましょうね」
「ナーニ、奥州は宮城野の産だ。……そなたこそ江戸の産まれであろうな」
「房州網代村の産でござんす。……ご免遊ばせ」
とスッと立ち、向こう側の座席へ行ってしまった。
(驚いたなあ)と貝十郎は、胸へ腕を組んで考えた。(どういう素姓の女だろう? ……それにしてもすっかり酔わされたぞ)その時寺子屋の師匠の声がした。
「お豊、あの女が曲者でしてな」
「さようで」と村医者の声がした。「隼二郎殿もお蔭で痩せましょうよ」
こうして接待は深夜まで続いた。その間に土地の人達は、次々に辞して家へ帰り、旅の者だけが希望に委せて、別々の座敷で寝ることになった。
貝十郎の案内された部屋は、十畳敷きぐらいの部屋であって、絹布の夜具が敷かれてあり、酔ざめの水などが用意されてあった。
(さて、これからどうしたものだ)貝十郎は布団の上へ坐り、ぼんやり行燈を眺めやった。