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オチフルイかいじゅうろうてがらばなし
十二神貝十郎手柄話
国枝 史郎
Read 十二神貝十郎手柄話 (オチフルイかいじゅうろうてがらばなし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 127,035 characters · 254 screens
「俺の身分を知っているくせに、何を云うのだ。うっかりした女だ」
二
「そうそう旦那は与力衆でしたわね」
「今後は殿様と呼ぶがいい」
「結城ぞっきのお殿様ね」
「文句があるなら唐桟でも着るよ」
「いいえ、殿様と云わせたいなら、黒羽二重の紋服で、いらせられましょうとこう申すのさ」
「そういう衣装を着る時もある。が、その時には同心が従く」
「目明し衆も従くんでしょうね」
「お前なんかすぐふん縛る」
「おお恐々!」と大仰に云ったが、妾のお蔦は寄り添うようにした。「でも殿様に似合うのは、そういう風じゃアありませんわね」
「河東節の水調子 ※(歌記号、1-3-28)二人が結ぶ白露を、眼もとで拾うのべ紙の――などと喉をころがして、十寸蘭洲とどっちがうまい? などと云っている俺の方が仁にあうと云うのだろう」
「そうよ」とお蔦はトロンコの眼をした。「梛の枯れ葉の名ばかりにさ。……殿様、今夜は帰しませんよ」
「まてまて」貝十郎は大小を取った。「与多は与多、仕事は仕事だ。……俺はちょっくら行って来る」
「どちらへ?」
と驚いて止めるお蔦を、ちょっと尻眼で抑えるようにし、「お前を相手に割白か何んかで、茶化したことばかり云っていて、それで暮らして行けるなら、とんだ暮らしいい浮世なんだが、まるっきり逆の世間でな」