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ちくまがわのスケッチ
千曲川のスケッチ
島崎 藤村
Read 千曲川のスケッチ (ちくまがわのスケッチ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,668 characters · 164 screens
螢は暗い流の方から迷って来て、町中を飛んで、青い美しい光を放った。
後の祭
翌日は朝から涼しい雨が降った。家の周囲にある柿、李なぞの緑葉からは雫が滴った。李の葉の濡れたのは殊に涼しい。
本町の通では前の日の混雑した光景と打って変って家毎に祭の提灯を深く吊してある。紺暖簾の下にさげた簾も静かだ。その奥で煙草盆の灰吹を叩く音が響いて聞える位だ。往来には、娘子供が傘をさして遊び歩くのみだ。前の日に用いた木の臼も町の片隅に転してある。それが七月の雨に濡れている。
この十四日には家々で強飯を蒸し、煮染なぞを祝って遊び暮す日であるという。午後の四時頃に成っても、まだ空は晴れなかった。烏帽子を冠り、古風な太刀を帯びて、芝居の「暫」にでも出て来そうな男が、神官、祭事掛、子供などと一緒に、いずれも浅黄の直垂を着けて、小雨の降る町中の〆飾を切りに歩いた。
その四
中棚
私達の教員室の窓から浅い谷が見える。そこは耕されて、桑などが植付けてある。
こういう谷が松林の多い崖を挟んで、古城の附近に幾つとなく有る。それが千曲川の方へ落ちるに随って余程深いものと成っている。