Japanese reading practice

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ちくまがわのスケッチ

千曲川のスケッチ

島崎 藤村

Read 千曲川のスケッチ (ちくまがわのスケッチ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 81,668 characters · 164 screens

Aozora Bunko

松林の奥

夷講の翌日、同僚の歴史科の教師W君に誘われて、山あるきに出掛けた。W君は東京の学校出で、若い、元気の好い、書生肌の人だから、山野を跋渉するには面白い道連だ。

小諸の町はずれに近い、与良町のある家の門で、

「煮いて貰うのだから、お米を一升も持っておいでなんしょ。柿も持っておいでなんすか――」

こう言ってくれる言葉を聞捨てて、私達は頭陀袋に米を入れ、毛布を肩に掛け、股引尻端折という面白い風をして、洋傘を杖につき、それに牛肉を提げて出掛けた。

出発は約束の時より一時間ばかり遅れた。八幡の杜を離れたのが、午後の四時半だった。日の暮れないうちにと、岡つづきの細道を辿って、浅間の方をさして上った。ある松林に行き着く頃は、夕月が銀色に光って来て、既に暮色の迫るのを感じた。西の山々のかなたには、日も隠れた。私達は後方を振返り振返りして急いで行った。

静かな松林の中にある一筋の細道――それを分けて上ると、浅間の山々が暗い紫色に見えるばかり、松葉の落ち敷いた土を踏んで行っても足音もしなかった。林の中を泄れて射し入る残りの光が私達の眼に映った。西の空には僅かに黄色が残っていた。