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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

Read 半之助祝言 (はんのすけしゅうげん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 21,997 characters · 44 screens

Aozora Bunko

いったいどこへいったか、図書助は笑いやんで、太息をついて、涙を拭きながら妻にわけを話し、

「さすがに気がついて、早いところ逃げだしたんだろう、どんな面をしておるか」

そのとき障子があいた。

図書助はびくっとして振返った。

夫人もそちらを見た。笙子嬢である、……笙子嬢はひどく羞かんで、俯向いて、肩をすぼめるような姿勢で(これまで曽て見たことのない)嫋々とした身ごなしでそこへ坐り、しなしなと両手をつき、甘い、溶けるような声で云った。

「お父さま、お母さま、お願いでございます、どうぞわたくしを、折岩さまとご一緒に、江戸へゆかせて下さいまし」

廊下で半之助がえへんと咳をした。

城下町の外れの畷道に、玄武社の幹部たちが集まって、道の彼方を睨みつけていた。かれらのお揃いの頬髯が、爽やかな早朝の風にいさましくなびき立った。

「狡猾と云ったものか、すばしっこいと云ったものかどうか」立原平助が云った。

「――あいつは江戸から来て、さんざっぱらわれわれを愚弄して、おまけに笙子嬢までひっ掠って、そうして、ひらりといっちまったねえ」

彼は手をひらりと振ってみせた。かくて折岩半之助は、江戸へ帰任した。