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なんちしんじゅう
南地心中
泉 鏡花
Read 南地心中 (なんちしんじゅう) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,205 characters · 79 screens
弟、妹の分にして、丸官はんに否は言わせぬ。よって、安心おしやすや。え、嬉しいやろ。美津さんが、あの、嬉しそうなえ。
どうや、九太夫はん。」
と云った、お珊は、密と声を立てて、打解けた笑顔になった。
多一は素袍の浅葱を濃く、袖を緊めて、またその顔を、はッと伏せる。
「ほほほほ多一さん、貴下、そうむつかしゅうせずと、胡坐組む気で、杯しなはれ。私かて、丸官はんの傍に居るのやない、この一月は籍のある、富田屋の以前の芸妓、そのつもりで酌をするのえ。
仮祝言や、儀式も作法も預かるよってな。後にまたあらためて、歴然とした媒妁人立てる。その媒妁人やったら、この席でこないな串戯は言えやへん。
そない極らずといておくれやす。なあ、九太夫はん。」
「御寮人様。」
と片手を畳へ、
「私はもう何も存じません、胸一杯で、ものも申されぬようにござります。が、その九太夫は情のうござります。」
と、術なき中にも、ものの嬉しそうな笑を含んだ。
「そうやかて、貴方、一昨日の暮方、餅屋の土間に、……そないして、話していなはった処へ、私が、ト行た……姿を見ると、腰掛框の縁の下へ、慌てもうて、潜って隠れやはったやないかいな。