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こどものかなしみ
号外・少年の悲哀 他六篇
国木田 独歩
Read 号外・少年の悲哀 他六篇 (こどものかなしみ) by 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 28,584 characters · 59 screens
だけど今時分の夕立なんて、よっぽど気まぐれだ。」と亭主が言った。
二人が飛びこんでから急ににぎおうて来て、いつしか文公に気をつける者もなくなった。外はどしゃ降りである。二つのランプの光は赤くかすかに、陰は暗くあまねくこのすすけた土間をこめて、荒くれ男のあから顔だけが右に左に動いている。
文公は恵まれた白馬一本をちびちび飲み終わると飯を初めた、これも赤んぼをおぶった女主人の親切でたらふく食った。そして、出かけると急に亭主がこっちを向いて、
「まだ降ってるだろう、やんでから行きな。」
「たいしたことはあるまい。みなさん、どうもありがとう」と、穴だらけの外套を頭からかぶって外へ出た。もう晴りぎわの小降りである。ともかくも路地をたどって通りへ出た。亭主は雨がやんでから行きなと言ったが、どこへ行く? 文公は路地口の軒下に身を寄せて往来の上下を見た。幌人車が威勢よく駆けている。店々のともし火が道に映っている。一二丁先の大通りを電車が通る。さて文公はどこへ行く?
めし屋の連中も文公がどこへ行くか、もちろん知らないがしかしどこへ行こうと、それは問題でない。なぜなれば居残っている者のうちでも、今夜はどこへ泊まるかを決めていないものがある。