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きらこうずけのたちば
吉良上野の立場
菊池 寛
Read 吉良上野の立場 (きらこうずけのたちば) by 菊池 寛 (きくちかん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,369 characters · 24 screens
一
内匠頭は、玄関を上ると、すぐ、
「彦右衛と又右衛に、すぐ来いといえ」といって、小書院へはいってしまった。
(そらっ! また、いつもの癇癪だ)と、家来たちは目を見合わせて、二人の江戸家老、安井彦右衛門と藤井又右衛門の部屋へ走って行った。
内匠頭は、女どもに長上下の紐を解かせながら、
「どうもいかん! また物入りだ! しょうがない!」と、呟いて、袴を脱ぎ捨てると、
「二人に早く来るよう、いって参れ!」と催促した。
しばらくすると、安井彦右衛門が、急ぎ足にはいって来て、
「何か御用で!」といって、座った。
「又右衛は?」
「お長屋におりますから、すぐ参ります」
「女ども、あちらへ行け! 早く行け!」と、内匠頭が手を振った。女は半分畳んだ袴、上下を、あわてて抱いて退ってしまった。
「例の京都からの勅使が下られるが、また接待役だ」
「はっ!」
「物入りだな」
「しかし、御名誉なことで、仕方がありませんな」
「そりゃ、仕方がないが……」と、内匠頭がいったとき、藤井又右衛門が、
「遅くなりました」といって、はいって来た。
「又右衛門、公儀から今度御下向の勅使の御馳走役を命ぜられたが、それについて相談がある」