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めいくんただゆき
名君忠之
夢野 久作
Read 名君忠之 (めいくんただゆき) by 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,683 characters · 32 screens
庭先に立並んでいた側女たちがハッと顔を見合わせた。忠之が癇癖を起すと、アトで両の拳を自分で開き得ないで、女共に指を揉み柔らげさせて開かせる。それ程に烈しい癇癖が今起りかけている事を察したからであった。
「タ……タワケ奴がッ。島津が何とした。他藩の武士を断りもなく恩寵して、晴れがましく褒美なんどと……余を踏み付けに致したも同然じゃ。仕儀によっては与九郎奴を、肥後、薩摩の境い目まで引っ立てて討ち放せ。その趣意を捨札にして、あすこに晒首にして参れ。他藩主の恩賞なんどを無作と懐中に入れるような奴は謀反、裏切者と同然の奴じゃ。天亀、天正の昔も今と同じ事じゃ。わかったか」
「ハハ。一々御尤も……」
「肥後殿も悪しゅうは計ろうまい。薩藩とは犬と猿同然の仲じゃけにの……即刻に取計らえ……」
「ハハ。追放……追放致しまする。追放……あり難き仕合わせ……」
「ウム。塙代与九郎奴は切腹も許さぬぞ。万一切腹しおったらその方の落度ぞ。不埒な奴じゃ。黒田武士の名折れじゃ。屹度申付けて向後の見せしめにせい。心得たか。……立てッ……」
戦国武士の血を多分に稟け継いでいる忠之は、芥屋石の沓脱台に庭下駄を踏み鳴らして癇を昂ぶらせた。