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うたのたてやましんじゅういっきょく

唄立山心中一曲

泉 鏡花

Read 唄立山心中一曲 (うたのたてやましんじゅういっきょく) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 30,835 characters · 61 screens

Aozora Bunko

可恐しいね。」

と二人は顔を見合せた。

が、註文通り、火鉢に湯沸が天上して来た、火も赫と――この火鉢と湯沸が、前に言った正札つきなる真新しいのである。酒も銚子だけを借りて、持参の一升壜の燗をするのに、女房は気障だという顔もせず、お客冥利に、義理にうどんを誂えれば、乱れてもすなおに銀杏返の鬢を振って、

「およしなさいまし、むだな事でございます。おしたじが悪くって、めしあがられやしませんから。……何ぞお香のものを差上げましょう。」

その心意気。

「難有い。」

と熱燗三杯、手酌でたてつけた顔を撫でて、

「おかみさん。」

杯をずいとさして、

「一つ申上げましょう、お知己に……」

「私は一向に不調法ものでございまして。」

「まあ一盞。」

「もう、全く。」

「でも、一盞ぐらい、お酌をしましょう。」

と小村さんが銚子を持ったのに、左右に手を振って、辷るように、しかも軋んで遁げ下りる。

「何だい。」

「毒だとでも思いましたかね。してみると、お互の人相が思われます。おかみさん一人きりなんでしょうかしら。」

「泊りましょうか。」

「御串戯を。」

クイッ、キュウ、クック――と……うら悲げに、また聞える。