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こくじはんのゆくえ
国事犯の行方
国枝 史郎
Read 国事犯の行方 (こくじはんのゆくえ) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 6,341 characters · 13 screens
一
一
石川島監獄の内は陰森として暗らかった。
「……どうも夫れは宜くあるまい。私には何うも賛成出来ぬ。……それは残念には相違あるまい。泥棒をしたというのでは無く、いずれも国家の行末を案じ、一片耿々の志を以て天下の為めに大事を行い、その結果捕われて幽囚されたのじゃから、俯仰天地に恥ずる所は無く、従って捕われて自由を奪われた事は無念であるに相違無い。併し、それ故破獄して浮世の風に当ろうと云うのは大丈夫として為すべからざることじゃ。男子須らく天命に安んず可し。何んとそうではあるまいかな」
斯う云ったのは河野広中である。明治十七年三月二十七日の夜で、此頃河野広中氏は福島事件に連座して、此処監房に入れられていたが、同室の赤井景韶と同じく松田克之の二人に破獄逃亡を勧められたのである。
「左様でござるかな。止むを得ませぬ」
松田は斯う云って頷いたが其顔色は不愉快そうであった。
「では我々も思い止まりましょう」
赤井も続いて斯うは云ったが、その言葉の嘘であることは河野氏には解っていたらしい。
松田は此時二十八歳。加賀金沢の産であって、島田一郎の同志の一人で、明治十一年五月十四日、時の内務卿大久保利通を紀尾井坂に於て暗殺したため無期徒刑を宣せられていたし赤井に至っては二十四歳。