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もぐらとらくばん
土鼠と落盤
黒島 伝治
Read 土鼠と落盤 (もぐらとらくばん) by 黒島 伝治 (くろしまでんじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 17,823 characters · 36 screens
一
くすれたような鉱山の長屋が、C川の両側に、細長く、幾すじも這っている。
製煉所の銅煙は、禿げ山の山腹の太短かい二本の煙突から低く街に這いおりて、靄のように長屋を襲った。いがらっぽいその煙にあうと、犬もはげしく、くしゃみをした。そこは、雨が降ると、草花も作物も枯れてしまった。雨は落ちて来しなに、空中の有毒瓦斯を溶解して来る。
長屋の背後の二すじの連山には、茅ばかりが、かさ/\と生い茂って、昔の巨大な松の樹は、虫歯のように立ったまゝ点々と朽ちていた。
灰色の空が、その上から低く、陰鬱に蔽いかぶさっていた。
山は、C川の上で、二ツが一ツに合し、遙かに遠く、すんだ御料林に連っていた。そこは、何百年間、運搬に困るので、樹を伐ったことがなかった。路も分らなかった。川の少し下の方には、衛兵所のような門鑑があった。
そこから西へ、約三里の山路をトロッコがS町へ通じている。
住民は、天然の地勢によって山間に閉めこまれているのみならず、トロッコ路へ出るには、必ず、巡査上りの門鑑に声をかけなければならなかった。その上、門鑑から外へ出て行くことは、上から睨まれるもとだった。