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ばいしょくかもなんばん
売色鴨南蛮
泉 鏡花
Read 売色鴨南蛮 (ばいしょくかもなんばん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 13,926 characters · 28 screens
手に取るばかりなお近い。
「なぞえに低くなった、あそこが明神坂だな。」
その右側の露路の突当りの家で。……
――死のうとした日の朝――宗吉は、年紀上の渠の友達に、顔を剃ってもらった。……その夜、明神の境内で、アワヤ咽喉に擬したのはその剃刀であるが。
(ちょっと順序を附よう。)
宗吉は学資もなしに、無鉄砲に国を出て、行処のなさに、その頃、ある一団の、取留めのない不体裁なその日ぐらしの人たちの世話になって、辛うじて雨露を凌いでいた。
その人たちというのは、主に懶惰、放蕩のため、世に見棄てられた医学生の落第なかまで、年輩も相応、女房持なども交った。中には政治家の半端もあるし、実業家の下積、山師も居たし、真面目に巡査になろうかというのもあった。
そこで、宗吉が当時寝泊りをしていたのは、同じ明神坂の片側長屋の一軒で、ここには食うや食わずの医学生あがりの、松田と云うのが夫婦で居た。
その突当りの、柳の樹に、軒燈の掛った見晴のいい誰かの妾宅の貸間に居た、露の垂れそうな綺麗なのが……ここに緋縮緬の女が似たと思う、そのお千さんである。
四
お千は、世を忍び、人目を憚る女であった。