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なつのそうれつ

夏の葬列

山川 方夫

Read 夏の葬列 (なつのそうれつ) by 山川 方夫 (やまかわまさお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 60,161 characters · 122 screens

Aozora Bunko

白いポロシャツの下の、彼の右肩にも、同じ形のあざがあった。彼は立ち上った。

一目、少女の顔をみたく思った。

よろめくように、彼は頼子のテーブルへと歩いた。

「しばらくでした」

「御機嫌よう」

頼子と言葉をかわしながら、彼は目を少女に注いでいた。少女は、おびえたような、探るような大人の目で、彼と頼子とを交互に見て、もじもじと頼子のほうに椅子をずらせる。その眉と目のあたりに、彼は、あきらかに自分をみた。「……お嬢さん?」と、彼はかすれた声でいった。

「ええ」

と頼子は答えた。「ちょうど、十になるの」

十? 彼は口の中で問いかえして、もう一度、少女の肩をみつめた。

あざはなかった。

茫然とし、やがて彼は白いテーブルのそこここに、点々と小さな影が落ちているのに気づいた。さっきのあざ、小さな蝶の形のあざは、ではそんな降りそそぐ光のいたずらにすぎなかったか。明るい夏の日射しが、店のガラス板を白くかがやかせている。彼は笑い出した。頼子も笑っていた。店は客がこんできていた。

数分後、彼が友人と一緒に喫茶店を出て行くのを、女はしずかな笑顔で目送した。

「ねえ、ママ」すると、それまでおずおずと黙りつづけていた少女は、さも不服そうな声で女にいった。