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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
Read 大菩薩峠 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 159,272 characters · 313 screens
「ちぇッ、世話の焼けた先生だなあ」
米友が再び地団駄を踏みました。人家すべて二十を数える碓氷峠の上の宮の前の町、一点に立てば全宿を見通すことも、全宿の通行人をいちいち検分することもできる。さりとて、わが先生の大蛇の鼾が聞えない。
一旦、宿並びの店という店を、いちいち探し廻った揚句、また再び宮の前へ戻って、坂本方面を見通してみたが、そこにも先生の気配がありません。
「ちぇッ、ほんとうに世話の焼けた先生だなあ」
米友は宮の前の石段の下に立って、三たび地団駄を踏みました。
ほんとうに世話の焼けた先生である――生命にこそ別条はあるまいけれども、責任観念の強い米友は、もしやと井戸の中まで覗いて見た上に、峠の宿を裏返し、表返しに覗いて歩きました。
こうして血眼になって、東西南北を駈け廻っている米友の姿を、広くもあらぬ峠の町の人々が、認めないわけにはゆきません。
「お兄さん、エ、コリャどうなさりました。迷い子に……エ、迷い子はお前のお連れさんでござりますか、年はお幾つぐらい?」
訊ねてみると、どちらが迷い子だかわかりません。迷い子は年の頃五十を越したお医者さん。それを尋ね廻っている御当人は、子供だか、大人だか、ちょっとは見当がつかない。