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だいぼさつとうげ
大菩薩峠1
中里 介山
Read 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,314 characters · 398 screens
「いやいや、あのあたりに住む甲源一刀流の人々は、いまだに拙者を根深く恨んでいるに相違ない」
「もとはと申せば試合の怪我、そんなに根深く思うものはござんすまい」
竜之助は答えず、暫らく打吟じて、思い出したように、
「浜、文之丞には弟があったそうな……」
「文之丞の弟……はい、兵馬と申しまする」
「その兵馬――それは今どこにいる」
「わたしが出るまでは番町の親戚におりました」
「歳はいくつになるであろう」
「左様、数え歳の十七ぐらい」
「その兵馬は、さだめて拙者をよくは思うまい」
「まだ子供でござんすものを」
「怖れるというではないが……いささか心がかりになる。今もその番町の親戚とやらにおるか、折もあらば聞き届けておくがよい」
「もし兵馬がお前様を仇と覘っていたら何となされます」
「仇呼ばわりをしたらば討たれてもやろう――次第によっては斬り捨ててもくれよう」
「それは不憫なこと、兵馬には罪がないものを」
お浜の本心をいえば、兵馬に憎らしいところは少しもない、兵馬にとっては自分は親切な姉であったし、自分にとっては兵馬は可愛ゆい弟です。その心持はどうしても取り去ることはできないのですから、まんいち兵馬が竜之助を覘うようなことがあらば、竜之助のために返り討ちに遭うは知れたこと、そのことを想像すると、お浜は兵馬が不憫でたまらなくなります。