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だいぼさつとうげ
大菩薩峠1
中里 介山
Read 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,314 characters · 398 screens
「おのおの方、詰らんことをなさるな」
小兵にして精悍な、左の眼のつぶれた右の浪士は、膝の上に絵図をひろげて眺めていながら、さいぜんからの騒ぎは、よそを吹く風のようにしていたが、この時はじめて頭を振向けてこう言った。
「あまりといえば無礼な奴」
「無礼は、こちらのこと」
「先生、これは間諜でござる、幕府の犬に違いござらぬ」
「なんにしても、おのおの方よりは少し強いようじゃ」
「宿を騒がすも気の毒ゆえ、鍵屋の辻へ引っぱり出して斬ってしまおうと存じます」
「あべこべに斬られてしまうぞ」
「何を! たかの知れたる間諜」
「フム、こっちで模様を見ていると、先方の方がよほど強い」
「左様なことはござりません、先生にも似合わんことをおっしゃる」
「強い、強い、先方が強い。この分で、鍵屋の辻へ行こうものなら瞬く間に、おのおの方が撫斬りになる」
「これは先生のお言葉とも覚えん、さほどに我々を見縊り給うか」
「とにかく引上げ給え、こちらの出様が悪い、かけ合いが礼儀でない」
小兵にして精悍な、左の眼のつぶれた浪士と、他の浪士どもとの問答はこんなふうであります。味方をたしなめて敵の者を賞めている。