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だいぼさつとうげ
大菩薩峠16
中里 介山
Read 大菩薩峠16 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 268,946 characters · 520 screens
それも、やはりさいぜん、薬草をとるべく来って、道を枉げたとか、道に枉げられたとかいう、生温い声明が無ければ、米友といえども、薬草であることは知るまい。溺るるものは藁をもつかむということだから、崖をでも辷り落ちる途端に掴んだ草の根か馬の骨をそのまま、掴み通しにして来たとしか思われないでしょう。
幸いに、不幸中の幸なのです、その擦り傷、かすり創というのも大したことではありませんでしたから、米友が、手拭をお湯で絞って、少しずつ拭いてやると、ごまかしが利いてしまう。
その間も道庵は、ほとんど正気がないのです。相手が米友とは、いったん心得たようだが、それも、もう忽ち見境いが無くなってしまったらしく、妙な手つきをして、四方を撫で廻した刷毛ついでに、米友の面を撫でてみたりして、気味を悪がらせていたが、その朦朧たるまなざしに早くも認めたのが、ずっと宵の口から問題になっていた、お雪ちゃんの米友のためにとて取り出して置いた夜具蒲団でした。
「占めた――もうこれよりほかにこの世に望みはねえ、世の中に寝るほど楽はなかりけり、浮世の馬鹿が起きて働く……これがこの世の後生極楽」