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だいぼさつとうげ
大菩薩峠19
中里 介山
Read 大菩薩峠19 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 319,771 characters · 617 screens
「こうして、一日作している以上は、一日食う権利があるんだぜ、大口をあいて、この世の穀を食いつぶしても恥かしくねえ」
と力みました。
実際、人は一心になると怖ろしいもので、道庵先生に於てすら、今日は朝の迎え酒だけで、それからはわきめもふらず本草学に熱中している。昼になっても、夕方になっても、飯の一つも食おうということを言わないし、酒の通いのちょこちょこなどはおくびにも出ないで、一心不乱になっている。この体を見ると真に寝食を忘れている。まず、この分なら安心である。この人が生活の空虚を感じて、人生の悲観に暮れるということになったら、もう天下はおしまいです。
かくして一日が暮れる。一日作した後の、一日の充実せる疲労を以て、ぐっすりとこの庵室に快眠を貪ることによって、天下泰平の兆があります。
無論、その夜の夢に、小町も出て来なければ、お豊真三郎も出て来ない。第一、出て来る方でも、道庵先生のところへ出て来たって、出て来栄えがしない、張合いがないと思って、それで出て来ないのです。翌朝、眼がさめると、おきまりの迎え酒一献、それからまた側目もふらず昨日のつづき、本草学の研究に一心不乱なる道庵先生を見出しました。