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だいぼさつとうげ
大菩薩峠6
中里 介山
Read 大菩薩峠6 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 185,112 characters · 362 screens
それで、米友はさいぜんから、戸の桟へ手をかけながらも、外なる女の声を、じっと耳に留めていたのだが、それは、お君の声でもなければ、お松の声でもありません。さりとて鐘撞堂新道にいるお蝶の声とも思われないし、無論、両国にいる女軽業の親方のお角の声とは聞き取れないから、米友は迷っているのです。
「あの、お君のところから聞いて参りました、そうしてムクにそこまで案内してもらいました」
「エ、お君のところで聞いたって!」
お君と言い、ムク犬と言うことは、米友の信用を高めるのに充分でありましたけれど、しかもお君と呼棄てにするこの女の正体は、更にわからないものであります。しかし、ここまで来た以上は、あけてやらないのも卑怯であると米友は思いました。どうかするとその筋の目付が女を使用して、人の罪跡を探らせることがある。もしそうだとすれば、自分は本来、さまで暗いところはないのだが、一緒にいる先生は、決して明るい世界の人とは言えない。だから、戸を開く途端に「御用」という声が剣呑ではある。あけてよいものか、悪いものか、それでもまだ米友は、暫し途方に暮れていると、
「あなたがその友造さんじゃありませんか、本当の名は米友さんとおっしゃるのでしょう、内密のお話があるのですからあけて下さい」