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てんぐいわのさつじんま
天狗岩の殺人魔
山本 周五郎
Read 天狗岩の殺人魔 (てんぐいわのさつじんま) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,872 characters · 18 screens
「伯父さんは客間かい」
と訊く、――銀作はぽかんとして、
「否え、さっき京太郎様と御一緒に、馬車で釣にいらっしただよ」
「え? 釣に行ったって?」
「へえ、鯛釣りだと云ってね、場所は向う淵だと云ってござらしっただ」
「なんだ馬鹿げてる!」
祐吉は舌打をした。――猟銃を取りに戻るなどと云って、矢張り山狩隊に加わる勇気はなかったんだ。
「向う淵というのは馬車で行くほど遠いのか」
「遠いだよ、あのぐひん様の下の崖道を通って五丁ばかり先だ」
「ぐひん様」
祐吉は聞き咎めた。
「なんだい、其のぐひん様て云うのは」
「あははは、儂らの方言でな、つまり天狗岩の事だ。御存じだんべえが」
「なんだ天狗岩か……」
祐吉は失望して、伯父の部屋へ拳銃を取りに入ろうと――二三歩行きかけたが、不意にぴたりと足を止める。
「あっ※(感嘆符二つ、1-8-75)」
まるで打のめされたように叫んだ。
「畜生、そうか、そうかッ」と云うと身を翻えして、
「銀作! 馬を出して呉れ、馬を」
「あ、なにするだね、馬なんぞ出して」
「何でも宜い、早くしろ、大変だッ」
祐吉の凄じい叫びに、下男は眼を剥きながら厩へ走った。
平野氏は平常から馬が好きで、アラブ種の駿馬を三頭持っている。