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かのうせいのぶんがく
夫婦善哉
織田 作之助
Read 夫婦善哉 (かのうせいのぶんがく) by 織田 作之助 (おださくのすけ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,834 characters · 94 screens
に詳しい。
――朝鮮を食い詰めて、お千鶴を花街に残したまま、再び大阪へ舞い戻って来た丹造は、妙なヒントから、肺病自家薬の製造発売を思い立ち、どう工面して持って来たのか、なけなしの金をはたいて、河原町に九尺二間の小さな店を借り入れ、朝鮮の医者が書いた処方箋をたよりに、垢だらけの手で、そら豆のような莫迦に大きな、不恰好な丸薬を揉みだした。
そして、肺病とはこんな大きな玉を頬ばらねばならぬものかと、患者が迷惑するだろうなどとは考えず、如何にすればこれが売れるだろうかと、ただもうそればかり頭をひねった。薬の原価代を払ったあと、殆んど無一文の状態で、今日つくった丸薬を今日売らねば、食うに困るというありさまだった。
新聞広告代など財布を叩き破っても出るわけはなく、看板をあげるにもチラシを印刷するにもまったく金の出どころはない。万策つきて考え出したのが手刷りだ。
辛うじて木版と半紙を算段して、五十枚か百枚ずつ竹の皮でこすっては、チラシを手刷りした。が、人夫を雇う金もない。已むなく自ら出向いて、御霊神社あたりの繁華な場所に立って一枚一枚通行人に配った。そして、いちはやく馳せ戻り、店に坐って、客の来るのを待ち受けるのだった。