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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
Read 女心の強ければ (おんなごころのつよければ) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 47,011 characters · 94 screens
「これだけお話すれば充分です。」柿沼は独語するように、そして憂鬱そうに言った。「よいところでお逢いしました。ここへは、しばしば来られますか。」
「いえ、めったに……。」
「そうですか。」
柿沼は女給を呼んで、勘定を聞いた。長谷川も、自分のぶんだけの勘定を払った。そして一緒に立ち上った。
スタンドの前を通って、薄暗い階段口のところで、柿沼はちょっと足をとめた。
「あのひとは、長火鉢にも、湯たんぽにも、なれませんよ。そういう人柄じゃない。」
呟くように言って、柿沼は階段を上っていった。長谷川はあとに続いた。地下室のバーから外に出ると、もう肌寒い初秋の夜気だった。まだ柿沼が何か言うかと思って、長谷川は一緒に歩いたが、しばらくして、そのばかばかしさに気付き、立ち止った。すると、柿沼も立ち止った。
並木の影の中で、二人は顔を見合った。帽子をかぶってる柿沼の顔には、何の表情も見て取られず、長谷川は眼鏡の奥で瞳をこらしたがふと、片手をあげて、無帽の長髪をかきあげる身振りをした。それを眼に納めて、柿沼は歩き去った。
長谷川はぴくりと肩を震わし、反対の方へ歩きだした。街路に小石を一つ見つけて、力一杯に蹴飛ばした。