Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
つまのざ
妻の座
壺井 栄
Read 妻の座 (つまのざ) by 壺井 栄 (つぼいさかえ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 82,695 characters · 165 screens
ミネはひそかな反発を感じながら家への路地を曲った。反対の方から、旅人のようにリュック・サックを背負い、カバンを下げた女が近づいてくる。閑子だ。ミネは門のそばで待ちうけた。
「姉さん。」
閑子の声はしわがれていた。
「帰ってきたわ。だまって出てきたの。もうとめないでね。私、証拠をにぎってきたのだから誰が何といっても帰らないつもり。」
いっている中に閑子の声はふるえてきた。
「さあ、家へ入ろうよ。分った、分った。」
子供でもあやすようにいって、ミネはカバンを受けとり自分の仕事部屋に閑子をさそった。うしろからリュックをかかえて下してやると、閑子はしゃんと胸をはるようにしてこちらへ向き直り、立ったまま、
「前の奥さんは貴族のように美しくけだかかったんだってよ。そして私に、何にもいわずに引き下ってくれないかって、書いてあるの。日記よ。だから私、だまって帰ってきたわ。野村、明日伊豆へゆくんだって、私がいないと忽ち困るじゃないの。でも私、帰らないわよ。誰がひと、あんなところに。」
なげつけるようにいう。世間なみにもとへ帰れといわれ、帰ってきてくれとたのまれるもののように決めている閑子の単純さを辛く思いながら、ミネは言葉少く、うなずいていた。