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ねたみのはなし
嫉みの話
折口 信夫
Read 嫉みの話 (ねたみのはなし) by 折口 信夫 (おりくちしのぶ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,960 characters · 10 screens
これは、別に相手を傷つけるためではない。何のためにするのかというと、根本は、自分らの面目を立てるためで、それをせぬと顔が立たぬのである。つまり、一つの形式化した低い道徳で、道徳に足をかけかけた、もう少しで道徳になるものと言うべきであろう。
自分の女房を犯した男があったとき、その男を殺すことを「めがたきうち」と言うが、これは道徳になっている。このほうは、密通した男と妻とを一度に討つことを条件と考えているようだが、妻の意志であっても、また強いられたにしても、その男を討つのが根本で、世間の制裁がはげしくなるにつれて変わったのだ。めがたきうちは、下級の者のもっていた低い道徳であったのが、武士の階級の道徳にはいっていったのである。その過渡期には、男らしくないことだ、という新しい見解で、だんだん有識階級から退けられ、軽んぜられた例もたくさんある。
近世では、水戸烈公の話や、西鶴の『武道伝来記』にも書かれている。これは武士階級特有のものでなく、逆に下からあがってきたのだとも思われる。武士が純化せぬうちに、下からはいって体面を保ったものであったのだろう。つまり、敵討ちの根本は、世の中で許されぬような行為を犯した者を、この世からほうり出すのには、もっとも関係の近い者、その汚れに触れたものが出て行く、ということから出ている