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きせつのないまち

季節のない街

山本 周五郎

Read 季節のない街 (きせつのないまち) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,379 characters · 394 screens

Aozora Bunko

を横切っているだけであった。小屋の窓の外に一本、高さ一メートルばかりの細い枯木が立っているが、枯れてから幾年も経つのだろう、いまではなんの木であるかもわからなかった。

平さんの小屋とその周囲には、生命というものが感じられなかった。そこに見られるのは、人にかえりみられなくなった荒廃ではなく、不毛と枯死そのもののようであった。

平さんは誰ともつきあわず、日常の挨拶も殆んどしなかった。本当の名もとしもわからない。見たところ五十歳から六十歳のあいだらしいが、ときによると七十ちかい老人のように、力なくやつれてみえることもあった。躯は小柄で痩せているけれども、筋肉はひき締って、陽にやけた皮膚にもつやがあり、いかにも健康そうだし、眉の濃い細おもての顔も、よく見るとなかなか品があった。

「若いころはきっといい男ぶりだったろうね」とかみさんたちは云いあった、「いまだって捨てたもんじゃないだろう、このあいだ誰かさんが、夜なかに這い込んでったっていうじゃないか」

「なま睡の出るような話じゃあないの、誰かさんって誰よ」

「およしよお吉さん、云いだしっぺってこと知らないの」

云いだしっぺといわれたかみさんはふんと鼻を鳴らし、それからすました顔で続けた。