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いえ
家
島崎 藤村
Read 家 (いえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,411 characters · 285 screens
お雪は、勉が留守だったと言って、旅舎の方から戻って来た。
翌日、勉からは、三吉とお雪の両名宛で、葉書が届いた。それには、子供への土産の礼を述べ、折角姉上が訪ねてくれたのに、不在で失礼した、これから郷里へ向う、母上にも宜しく、としてあった。
十月は末に成って、三吉は長い風邪に侵された。名倉の母は未だ逗留していた。熱のある夫の為に、お雪は風薬だの、食物だのをこしらえた。それを二階に寝ている夫の枕許へ運んだ。時には、子供が随いて上って来て、母の肩につかまったり、手を引いたりして戯れた。
「叔父さんは御風邪ですか」
正太が階梯を上って来た。三吉は快くなりかけた時で、厚いドテラを引掛けたまま、床の上に起直った。
「正太さん、失礼します」と三吉は坊主枕を膝の上に乗せて言った。
「御無沙汰しておりますが、豊世さんも御変りは有りませんか」
こうお雪は正太に尋ねて、元気づいた夫の笑声を聞きながら階下へ降りて行った。
「どうです、兜町の方は」と三吉は正太が言わない先に言出した。「何とか言いましたネ、広田サ……今度の店の方はどうですかネ」
正太は寂しそうに笑った。「ええ、まあ暖簾が掛けてあるというばかり。